
【54兆円の真実】ロケットだけが宇宙じゃない。「地上が稼ぐ」宇宙ビジネスの収益構造を完全解剖!
【54兆円の真実】ロケットだけが宇宙じゃない。「地上が稼ぐ」宇宙ビジネスの収益構造を完全解剖!
宇宙ビジネス市場規模と誤解
今回は宇宙ビジネスの市場規模を業界別で詳細に分析する。
以前の記事で「2040年に市場規模150兆円!」と記載したが、現在の市場規模はどうなのだろうか。
そこで現在の市場規模および業界別の内訳を見ていくことにより、「どこに投資すべきか」「自社事業とどう絡むか」という視点で役立てたいと考えている。
「えっ?ウチはロケット打ち上げなんか関係ないよ」というビジネスパーソンほどぜひ読んでほしい。「宇宙ビジネス=ロケット打ち上げ」と思い込んでいるとしたら、それは大きな機会損失だ。
なぜなら、ロケット等の打ち上げは市場全体のわずか1.8%に過ぎないのだから。
では早速、市場規模と業界別の内訳を詳しく解説していく。
宇宙ビジネス市場規模を業界別に解説
2022年における世界の宇宙経済規模は、合計で約3,840億ドル(約54兆円)に達している。資料に基づき、内訳を図解と詳細な数値で捉えてみる。
※出典:経済産業省「国内外の宇宙産業の動向を踏まえた経済産業省の取組と今後について」
1. 衛星産業(民間・商用分野):約2,813億ドル
市場の約4分の3を占める主要分野。
- 衛星用地上機器(Satellite Ground Equipment):1,450億ドル
- 消費者向けナビゲーション機器(GNSS等):1,119億ドル
- ※GNSS(Global Navigation Satellite System)とは衛星測位システムの総称。GPS(Global Positioning System)はアメリカが運用する衛星測位システム。GNSSはGPSを含んだ概念。
- 衛星テレビ、ラジオ、ブロードバンド、移動体機器:179億ドル
- ネットワーク機器:152億ドル
- 消費者向けナビゲーション機器(GNSS等):1,119億ドル
- 衛星サービス(Satellite Services):1,133億ドル
- テレビ放送:824億ドル
- 固定衛星サービス:177億ドル
- 衛星ラジオ:69億ドル
- 地球観測サービス:34億ドル
- 移動体衛星サービス:29億ドル
- 衛星製造(Satellite Manufacturing):158億ドル
- 宇宙輸送/打ち上げ(Launch Services):70億ドル
- 宇宙の持続可能性に関する活動(Space Sustainability Activities):2.5億ドル
2. 政府予算(Government Budgets):約1,033億ドル
市場の約4分の1を占めている。
- 米国政府予算:593億ドル
- NASA(宇宙航空局):237億ドル
- USSF(宇宙軍):174億ドル
- NRO(国家偵察局):131億ドル
- Other Dod(その他の国防関連予算):32億ドル
- NOAA(海洋大気庁):12億ドル
- Other USG(その他政府機関):6.95億ドル
- 米国以外の政府予算:424億ドル
- 中国:155億ドル
- 欧州:143億ドル
- 日本:46億ドル
- ロシア:30億ドル
- インド:17億ドル
- その他:34億ドル
全体感は把握できただろうか。ここから深掘りして解説する。
宇宙を利用して地球上で稼ぐこと
① 市場の75%は「民間」が回している
まず驚くべきは市場の成熟度だ。
市場全体の約4分の3(約2,811億ドル)は**「衛星産業(民間・商用)」が占めている。**
宇宙開発はもはや国家プロジェクトだけの領域ではなく、すでに巨大なコマーシャル市場として機能しているのである。
② ロケットはわずか1.8% 最大の市場は「地上」にある
多くの企業が参入を躊躇する理由は「ロケット技術がないから」だ。
しかし、データを見ればその懸念が的外れであることがわかる。
- 衛星用地上機器:1,450億ドル(市場の約38%)
- 衛星サービス:1,133億ドル(市場の約30%)
- 宇宙輸送/打ち上げ:70億ドル(市場の約1.8%)
派手なロケット打上げ市場は全体の2%未満に過ぎない。
最大勢力は「地上機器(1,450億ドル)」だ。
これには我々が普段利用しているカーナビやスマホのGPS受信機(GNSS)、衛星放送のアンテナ、ネットワーク機器が含まれる。
つまり宇宙ビジネスの勝者は、宇宙空間にいる企業ではなく、「宇宙からのデータを受け取り、地上のユーザーに届けるデバイスやサービスを作る企業」なのだ。
ここに製造業やIT企業が参入すべき巨大なホワイトスペースがある。
③ 政府予算から読み解く「もう一つの金脈」
一方で、市場の約4分の1を占める政府予算も見逃せない。
特に米国政府の予算は圧倒的であり、安全保障分野への投資が巨額だ。
これは最先端技術がまず官需で育ち、その後民間に降りてくることを示唆している。
日本の政府予算は米国の10分の1以下だが、世界第3位の経済規模を背景に、民間企業との連携による伸び代は十分にある。
実際の参入企業事例
これまでの市場データが示す通り、「地上セグメント(地上設備・機器)」と「衛星サービス(データ利用)」こそがビジネスの本丸だ。
2026年現在、あるいは直近数年で実績を上げている、この2つの領域の代表的な日本企業をピックアップした。
例えば、古野電気株式会社のようにGPS受信チップで金融や通信インフラの時刻同期を支える企業や、株式会社Synspective、株式会社天地人のように、衛星データを解析して水道管の漏水検知や地盤沈下リスク診断を行う企業が存在する。
彼らはロケットを飛ばしているわけではない。
しかし、彼らこそが54兆円市場の**『地上の稼ぎ』を支えるメインプレーヤー**なのである。
1. 衛星からのデータを活用する会社(市場の30%:衛星サービス)
「宇宙に行く」のではなく、「宇宙の視点を地球のビジネスに実装している」企業群だ。
株式会社Synspective
- 何をしているか: 小型SAR(合成開口レーダー)衛星の開発・運用およびデータ解析。
- 地上のビジネス活用:
- インフラ監視: 道路や地盤がミリ単位で沈下していないか、現地に行かずに宇宙から監視できる。
- 災害対策: 洪水時の被害状況を夜間や悪天候でも可視化(光学カメラと違い雲を透視できるため)する。
- 投資価値: 自治体や建設コンサル、保険会社が主要顧客だ。まさに「インフラメンテナンス」という地上の巨大市場をDXしている。
株式会社天地人
- 何をしているか: JAXAの職員らが創業した、衛星ビッグデータ解析エンジン「天地人コンパス」の提供。
- 地上のビジネス活用:
- 水道管の漏水検知: 衛星データとAIを使って「漏水リスクの高い場所」を特定。自治体の調査コストを劇的に削減している。
- 農地適正評価: 気候や土壌データを解析し、「キウイフルーツの栽培に最適な耕作放棄地」を探し出すなど、アグリビジネスに応用している。
- 投資価値: 独自の衛星を持たず、データ解析という「知恵」だけでビジネスを成立させている好例だ。
株式会社Tellus
- 何をしているか: 衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」の運用。
- 地上のビジネス活用:
- データの民主化: 従来、衛星データ取得において煩雑な手続きがあったが、企業がアプリ開発感覚で衛星データを利用できるようにしたプラットフォームを提供している。
2. 衛星と通信する地上の部品・設備を作る会社(市場の38%:地上機器など)
いわゆる「宇宙関連機器」市場の最大勢力だ。
ロケット部品ではなく、カーナビ、スマホ、地上局アンテナなど**「電波を受け取る側」の技術である。**
古野電気株式会社
- 何をしているか: 世界的な船舶用電子機器メーカー(シェア49%)であり、GNSS(GPS等)受信チップ・受信機のトップランナー。
- 地上の稼ぎ:
- 高精度な時刻同期: 実は携帯電話の基地局や金融取引、電力網のシステムは、衛星からの正確な「時刻データ」がないと動かない。古野電気の受信機は、この社会インフラの根幹(時刻同期用GNSS受信機)で高いシェアを誇る。
- ポイント: 目立たない「BtoB部品」だが、IoT社会、自動運転社会に不可欠な**「地上のインフラ」そのもの**である。
株式会社インフォステラ
- 何をしているか: 「StellarStation」というクラウドベースの地上局プラットフォームを提供。衛星運用者は世界中に広がる地上局ネットワークへ簡単にアクセス可能。
- 地上の稼ぎ:
- アンテナのAirbnb: 世界中の大学や民間企業が持っている「稼働していない時間のアンテナ」をネットワーク化し、衛星事業者に貸し出すビジネスモデル。
- ハードウェアの抽象化: 物理的な「部品」メーカーではないが、地上の受信設備(グラウンド・セグメント)を効率化するインフラ企業として世界的に注目されている。
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
- 何をしているか: IoT向けボードマイコン「SPRESENSE」や、衛星通信用レーザーデバイスの開発。
- 地上の稼ぎ:
- 超低消費電力GPS受信: SPRESENSEに搭載されたGNSS受信機能は非常に低消費電力。トラッカー(追跡装置)や農業用センサーなど、地上のIoTデバイスが「宇宙の位置情報」を活用するための心臓部を作っている。
KDDI / ソフトバンク
- 何をしているか: スターリンク(SpaceX)やOneWebなどの衛星通信事業者との提携による「地上への回線提供」。
- 地上の稼ぎ:
- 圏外エリアの解消: 山小屋や離島、災害時において、Starlinkアンテナ(地上機器)を設置してスマホをつなげるサービスを展開している。
- バックホール回線: 基地局の裏側の配線を衛星に置き換える動き。まさに「衛星通信を地上ユーザーに届けるパイプ役」として巨大な収益を上げている。
結論:自社のアセットを「宇宙」に接続せよ
約54兆円市場の内訳が示す事実はシンプルだ。
「ロケットを飛ばす会社」になる必要はない。
「衛星からのデータを活用する会社」「衛星と通信する地上の部品を作る会社」になることで、貴社はこの巨大市場の主要プレイヤーになれるのである。
宇宙は「行く場所」から「使う場所」へ。
このパラダイムシフトを理解した企業こそが、次の10年の覇権を握るだろう。
引用
- https://brycetech.com/reports/report-documents/Bryce_2022_Global_Space_Economy.pdf
- https://suido.tenchijin.co.jp/
- https://synspective.com/jp/
- https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/r4_minkan/pdf/027.pdf
- https://corp.tellusxdp.com/
- https://www.furuno.com/jp/gnss/
- https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB264ZJ0W4A320C2000000/
- https://www.infostellar.net/jp
- https://www.sony-semicon.com/ja/index.html
- https://www.sony-semicon.com/ja/products/spresense/index.html
